総長挨拶

「生涯の理想を求める船旅に」

学校法人東海大学海外研修航海は、諸外国への訪問や船内での共同生活を通じて世界観や人生観を育む、学園の特色ある教育プログラムの一つです。1968年の第1回航海から数えて今年で48回目となり、参加学生の累計は3,600人を超えることになります。

今回は昨年と同様に南太平洋を巡航する計画で、小笠原諸島(父島)、ミクロネシア連邦(ポンペイ)、ニューカレドニア(ヌーメア)、パラオ共和国(マラカル)を訪問して清水に帰港する、全航海距離8,460海里の船旅です。

船旅の魅力は様々ですが、一つに「日常とは異なる時間の流れ」があるでしょう。我々が暮らす現代社会は、高度に発達した情報技術や交通インフラによって、経済効率を優先させた「高速化」の一途をたどっています。そのような社会でこそ、確固たる人生観や世界観が不可欠でありながら、濁流の中でそれを養うことは容易ではありません。

一方で船旅は、優しく厳しい自然の変化を体験しながら、悠久の時の流れを体感できる貴重な機会を提供してくれます。目の前に広がる群青の海と紺碧の空の下で、「人生をいかに生きるべきか」と思索を深めることができるのです。

さらに、この研修航海では、人生の理想を探し求める君の傍らに、生涯の友となりうる仲間と、支えてくれる恩師がいます。情報社会で希薄化された人間関係ではなく、信頼に基づいた「人間本来の関わり方」を学ぶことができるのも研修航海の魅力なのです。居住空間の限られた船上で他者と触れあい、語り合うことで「人間として大切なこと」を再確認していただきたい。そして共同生活と研修プログラムを通じて、役割と責任を果たす大切さを学んで欲しいのです。

全行程42日間の航海では、多様な研修プログラムが計画されています。寄港地では現地の方々との交流会や史跡等の訪問が企画され、船上では洋上講座や赤道祭、洋上卒業式といった多くのイベントが行われる予定です。

また今回は、1970年の第3回研修航海以来、47年ぶりに父島を訪問します。今なお太平洋戦争の残骸が残る父島で平和について思索を深め、貴重な動植物の保護に努める地域の方々と交流して、自然環境と人間との共生についても見つめ直して欲しいのです。

教師や仲間たちと寝食を共にし、時に人生を語り、訪れる国々の文化や歴史に向き合い、ありのままの自然に触れる。船旅ならではの体験の中に、大いなる発見や感動を見出すことができるでしょう。研修団学生の皆さんには、この航海を人生の新たな出発点として、生涯の理想を定め、勇気をもって歩む「生き方」を学んで欲しいと願っております。

学校法人東海大学 総長
松前 達郎