PAUL GAUGUIN (1848〜1903)抄
   
  東海大学海洋調査研修船/望星丸
  船長(教授/Ph.D)  
荒木直行
     
 「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」は、氏が晩年描いた畢生の大作と言われている。
 一昨年、タヒチ島一周のバスツアーで「ゴーギャン博物館」に行った。残念ながらそこには、本物の絵は一枚もなかったが、館内の一角に、氏が若い頃船乗りだった事やその航跡が展示されてあり興味を持った。又日本の浮世絵の構図を参考にした作品がある事や、望星丸が通過した経験のあるパナマ運河の建設に従事していた事にも感心した。
  その上、メット夫人が、望星丸が1996年世界一周航海時寄港したデンマークのコペンハーゲン出身であり、同市のニ・カールスバーク美術館には、「縫い物をするシュザンヌ」をはじめ、初期の頃の作品が多数収められている事に更に感銘した。
  英国人作家モーム氏は、「月と六ペンス」の作品の中で、氏をモデルにしたストリックランドという名の主人公が、己の魂の苦しみを通して、不評と挫折と混沌の中から、人間の通俗性の奥にある不可解性を追求しながら、素晴らしい芸術作品を創造してゆく物語を書いている。
  やがてバスは、「ゴーギャン博物館」を離れ、明るく燦々と輝く太陽のもと、右側に山々の切り立った岩肌と繁茂した各種熱帯樹の緑色の、左側に南太平洋の珊瑚礁に囲まれた透き通るようなライトブルーの景色を眺めながら、氏が第一次タヒチ滞在時(1891〜1893)過ごし「マリア礼賛」や「パラウ・アピ」等の名作を仕上げたマタイエアの村を、白い砂埃を上げながら通り過ぎていった。道路脇に氏が建立したといわれる石作りの洒落た小さな教会が、何も言わずに建っていた。